エンジニアリングマネージャー(EM)としてチームを率いる中で、
このような悩みに直面したことはないでしょうか。
「非常に優秀で技術力もある女性エンジニアにリーダー職を打診したが、『自分にはまだ早い』と固辞されてしまった」
「ライフイベントへの配慮のつもりで負荷の低いタスクを割り振っていたら、いつの間にか彼女の成長が停滞してしまった」
良かれと思った「配慮」が、実は彼女たちのキャリアの可能性を狭めてしまっているかもしれません。
本記事では、女性エンジニアが直面しやすい心理的障壁を紐解きながら、
EMが「属性へのケア」と「プロフェッショナルとしてのプッシュ」をどう両立させるべきか、
その具体的なメンタリング手法を解説します。
女性エンジニア育成の鍵は「配慮」ではなく「適切な期待の言語化」にある
多くのマネージャーが陥りがちなのが、「良かれと思ったアンダーマネジメント(過保護)」です。
出産や育児、あるいはジェンダーギャップを意識するあまり、「無理をさせないこと」を最優先にしてしまう。
しかし、これはプロフェッショナルとしての成長機会を奪うことと同義です。
女性エンジニアの育成において真に重要なのは、以下の2つのセットです。
- 安心感(セーフティネット): 失敗してもキャリアが断絶しない、心理的安全性の担保。
- 高い要求(ハイ・エクスペクテーション): 「あなたならこの難易度の設計ができる」という期待の明文化。
「配慮」を「成長のブレーキ」にしないためには、個人の能力と志向に基づいた「期待の言語化」が不可欠なのです。
なぜ優秀なエンジニアほど「次の一歩」に慎重になるのか
自立心が高く、技術への熱量があるエンジニアほど、キャリアの転換点で足踏みをしてしまうことがあります。これは、本人の意欲が低いからではなく、プロフェッショナルとしての「責任感の強さ」と「環境要因」が複雑に噛み合っているからです。
1. 「職人気質」が招くリーダーシップへの心理的バイアス
向上心の高いエンジニアにとって、技術研鑽はアイデンティティそのものです。
そのため、マネジメントやリーダー職を打診された際、「現場の技術から離れること=エンジニアとしての終わり」という極端な二択で捉えてしまう傾向があります。
特に周囲にロールモデルが少ない環境では、「リーダーとは調整業務に奔走する人」という断片的なイメージが先行し、自分の強み(技術力)を活かした「技術で牽引するリーダー像」を想像できなくなっています。この心理的サンクコスト(これまでの技術投資を無駄にしたくない心理)が、挑戦を阻む最大の壁となります。
2. 「ソロ・ステータス」が生む高すぎる自己規律
チーム内に自分と同じ属性やバックグラウンドを持つ人間が少ない状況(ソロ・ステータス)では、無意識に「自分のパフォーマンスが、特定の属性全体の評価を左右する」という重圧を感じやすくなります。
このプレッシャーは、自立したプロフェッショナルであればあるほど、「120%の確信がないと手を挙げない」という過剰な自己規律として現れます。
マネージャーが「まずはやってみて、失敗から学べばいい」と考えていても、
本人は「一度の失敗がキャリアの致命傷になる」とリスクを高く見積もってしまう。
この「リスク認識のギャップ」こそが、期待値のミスマッチの正体です。
3. 「暗黙の要件」への適応と疲弊
向上心のあるメンバーは、組織の期待に敏感です。
しかし、評価制度や昇進基準が不明瞭な場合、
彼女たちは「圧倒的な成果を出し続けなければ認められない」という暗黙のハードルを自分に課し、オーバースペックな準備に時間を費やしてしまいます。
本来、挑戦は「未完成」な状態で飛び込むからこそ価値がありますが、プロ意識の高さゆえに「完璧にこなせる保証」を求めてしまう。
マネージャーが提供すべきは「手厚い保護」ではなく、 「どこまでが期待値で、どこからが挑戦の範囲か」という明確な境界線なのです。
4. アンコンシャス・バイアスによる「意欲の空振り」
自走できるメンバーに対し、マネージャー側が「彼女は今のバランスを大事にしたいはずだ」と勝手に限界を決めてしまうケースも少なくありません。
「今は私生活を優先したいだろうから、このタスクは別のメンバーに」という無意識のバイアスは、
向上心のある彼女たちから見れば「成長機会の喪失」であり、組織へのエンゲージメントを下げる要因となります。
「挑戦を後押しする」メンタリング3つの柱
彼女たちの背中を適切に押すためには、これまでの「1on1」をアップデートする必要があります。
1. インポスター症候群を前提とした「スキルの棚卸し」
自分の実力を過小評価する「インポスター症候群」は、マイノリティ属性を持つエンジニアに現れやすい傾向があります。
EMは、抽象的な褒め言葉ではなく、客観的な事実(エビデンス)に基づいたフィードバックを徹底しましょう。
- GitHubのコントリビューションやコードレビューの質: 「いつも助かっている」ではなく「このリファクタリングによって、計算量が〇〇から○○に改善され、保守性が飛躍的に向上した」と技術的に評価する。
- 設計書のロジック: 複雑なエッジケースを網羅できていた点を、ドキュメントを元に指し示す。
「まだ早い」という主観を、「これだけの事実があるから次に行ける」という客観的事実に変換する作業が、彼女たちの自信を地に着いたものにします。
2. 心理的安全性を超えた「技術的心理的安全性」の構築
単に「何でも言える」だけでなく、「技術的な挑戦における失敗が、エンジニアとしての評価を致命的に下げない」という確信を与えることが重要です。
- ポストモーテムの徹底: 障害やミスが起きた際、個人ではなくシステムやプロセスに焦点を当てる文化を徹底します。
- 「分からない」の推奨: EM自身が「自分もこの技術については学習中だ」と開示し、技術的な無知を晒すコストを下げる姿を見せます。
3. スポンサーシップ型メンタリングへのシフト
単に悩みを聞く「アドバイザー」で終わってはいけません。
EMには、彼女たちを社内の重要なプロジェクトや意思決定の場に引き上げる「スポンサー」としての役割が求められます。
- 「次の技術選定の会議、君の視点が必要だから参加してほしい」
- 「登壇のチャンスがあるが、君のあの実装事例は外部に発信すべき価値がある」
このように、本人が「自分には荷が重い」と感じる一歩先のチャンスを意図的に用意し、
それを遂行するためのサポート(リソース配分やフォロー体制)をセットで提案します。
女性エンジニアのキャリアを加速させる3つの視点
ロールモデル不在をどう埋めるか
社内に女性のシニアエンジニアやテックリードがいない場合、彼女は「自分の数年後」をイメージしにくくなります。
この場合、社内に限定せず、「WAKE Career」などの外部コミュニティやメンタリングサービスを活用し、多元的なロールモデルに触れる機会を提供しましょう。
「管理職にならなくても、技術を極めながら家庭を両立させている人」など、多様なサンプルを見せることが安心感に繋がります。
ライフイベントを「ブランク」にしないための設計
産休・育休は「休止」ではなく、キャリアという長いスパンにおける「調整期」です。
「戻ってきた時に居場所があるか」を心配させるのではなく、
「戻ってきた時に、より面白い、市場価値の上がる仕事が待っている」と思えるような、
スキル資産の形成を共に計画しましょう。
リーダーシップの多様性を認める
「声が大きく、グイグイ引っ張る」だけがリーダーシップではありません。
- サーバント・リーダーシップ: チームの障害を取り除き、成長を支援する。
- 技術で示すリーダーシップ: 圧倒的なコードの質と設計思想でチームを導く。
こうした「多様なリーダー像」を肯定することで、「私にもリーダーが務まるかもしれない」という選択肢を提示できます。
よくある質問
Q1:本人が「自信がない」と繰り返す場合、どう声をかけるべき?
A: 感情を否定せず、「なぜそう感じるのか」を論理的に深掘りしてください。
その上で、EMが見ている「彼女が達成した事実」をデータや成果物でぶつけます。
「君の感覚(自信のなさ)は否定しないが、この成果物(事実)はプロとして高く評価できる」という二段構えのアプローチが有効です。
Q2:ライフイベントの予定について、どこまで踏み込んで聞いてもいい?
A: プライベートな予定を無理に聞き出す必要はありません。
それよりも「どんな状況(家族の介護、育児、自身の体調変化など)になってもキャリアを継続・加速できるよう、今どのスキルを重点的に伸ばしておくべきか」という、キャリアのレジリエンス(復元力)を高める対話を心がけてください。
Q3:周囲のメンバー(男性など)との「公平性」をどう保つ?
A: 「平等(Equality:全員に同じものを与える)」ではなく「公正(Equity:必要な人に必要な支援を与える)」という考え方をチームに浸透させましょう。
個々の事情(属性やライフステージ)に合わせてサポートを変えることは、チーム全体のパフォーマンスを最大化するための「戦略的最適化」であることを明確に伝えます。
可能性を信じ抜くマネジメントが、未来を創る
エンジニアマネージャーの役割は、彼女たちの可能性を誰よりも信じ、その「期待」を具体的な言葉とチャンスとして伝え続けることです。
「配慮」という名のブレーキを外し、技術的心理的安全性を担保した上で、「挑戦」という名のアクセルを共に踏む。その小さな成功体験(Small Wins)の積み重ねこそが、個人のキャリアを輝かせ、ひいては組織全体の多様性と競争力を高める大きな力になります。
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